かわいいセンターの過剰反応

子どもを持ってからというもの、何かにつけてかわいいものを手に取りたくなっている。写真は、子どもが通学グッズのために選んだゆめかわ生地。かわいい。
有馬ゆえ 2022.05.06
誰でも
photo:yue arima
photo:yue arima

こんにちは。ライターの有馬ゆえです。

気付けば、theLetterを始めてから今年の3月で1年が経っていました。大して告知もせず、ヒット記事も生まないいちライターのレターを受け取ってくださる数少ない読者の皆さま、ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

今回は、佐賀新聞Fit ecruでの連載記事から「かわいいセンサーの過剰反応」(2018年2月掲載)の加筆修正版をお送りします。子どもが生まれたのをきっかけに、かわいいセンサーがぶっ壊れはじめた話。

***

このままでは危ないファンシーおばさんになりかねない。

そんな危機感を抱いたのは、産後しばらくして、赤子を胸にくっつけながら100円ショップをさまよっていたときのことだった。目の前に釣られている商品を手に取って、ハタと気づいたのだ。

「私いま、この名刺サイズのキキララのジップバッグを買おうかなって思った! パステルピンクとラベンダー色で描かれたキキララがかわいいなって思った! この類のものを、一度もかわいいと思ったことなかったのに!!」

毎日、目にしている我が赤子と、その周辺にある洋服やおもちゃについてかわいいかわいいとつぶやき続けた結果だろうか。赤ちゃん市場は異常なほどのかわいいであふれているし、そもそもだいたいのものは小さいだけでかわいく見えるのだ。

かわいいの洪水に巻き込まれ、どうやら私のかわいいセンサーはバカになってしまったようだ。ビーンと振り切れたまま、もとには戻ってこない。あんなにも、かわいいとは縁遠い人生を送ってきたというのに。

幼少期から大人びたキャラを期待されたためか、私は長らく意図的にかわいいものを避け続けてきた。

小学生のとき、お人形のようなクラスメイトが着ていたシャツのフリルや白いふわふわのニット、ベビーピンクのワンピースが、とってもかわいく魅力的だったのを覚えている。しかし私は、華奢で小さく控えめな彼女がまとっているそれらが自分に似合わないと感じていたし、子どもじみている気がして苦手だった。

「かわいい」と評される女の子たちの無邪気な甘さを身に着けられないことは薄々わかっていた。それを期待されることも拒んでいた。そして、どこか世の中を斜に見る私に与えられるほめ言葉は「クール」「かっこいい」「大人っぽい」だった。わざと冷たく振る舞って、嫌がられることもあったのではと思う。

赤や白、水色を選ぶことはあっても、ピンク色を選んだ記憶はないし、好きなキャラクターは、キティーちゃんでもキキララでもマイメロでもけろけろけろっぴでもポチャッコでもなく、ボードビルデュオだった。ご存じない方はぜひググってほしいが、シックな色合いの少年&少女(四頭身)で、あきれるほど「お姉さんっぽい」。幼いなりに、キャラ保持への固い意志を持っていたのだろう。

中高時代は、キャラクターはもちろん、音符やリボン、星、虹、ユニコーンといったラブリー系のモチーフ、スワロフスキーなどのキラキラが苦手で、特にハートマークのついたものは絶対に持ちたくなかった。

自我が育ってからは、今更女性らしい雰囲気をまとうのも気恥ずかしく、洋服も化粧品ですら、パステルカラーやピンク系をほとんど買ったことがない。小さなリボンがついていたのは、ブラジャーの谷間部分ぐらいだ。

それなのに、私は娘がよろこぶならとキャラクターの侵入を許し、積極的に入国させないまでもピンクやパステルカラーに通行手形は渡している。

産後すぐは「キャラのプリントされた服なんて絶対に自分の目の届く範囲には侵入させない!」と断言していたのに、ついに娘がGAPで選んだエルサのパジャマを「かわいいの見つけたじゃん」と言って購入(安かったし、水色だし)。仕方なく譲り受けたお古のお人形も、最初は気味が悪くて仕方なかったのに、最近そこそこかわいいかもと感じている(もっと怖い人形いるし)。フライングタイガーで買った大きな赤いハートのついたジップバックは、キッチンに常備(シンプルだし)。少し前の夏はランコムのピンク系の口紅を愛用していた(流行りの色だったし)。

数年前の自分に、鋭い軽蔑のまなざしを投げかけられているのに気づく。

しかし実は、こんな気持ちになっているのは私だけではないらしい。

ある人は「かわいいものに興味なかったのに、娘の買い物で寄ったサンリオで思わず仕事用のペンを買っていた」と言い、ある人は「堂々とピンク好きを公言する娘に感化されて、選んだことのなかった薄いピンクのコートを試着した」と話す。

さらにある人は、「クリスマスプレゼントにシルバニアファミリーを買ったんだけど……かわいい! って釘付けになっちゃったんだよね。もちろん娘のためなんだけど、本当は私の中の小さな自分が『ほしい』って言うのを止められなかった」と熱弁した。

わかる。私も中世の城のシリーズのレゴしか買ってもらえなかった子ども時代の私が、ガールズ向けシリーズ「レゴフレンズ」を買わせようとしてくるもの。グレーとベージュのお城や槍を持った兵士たちのサゲ具合ったらないのだ。それにひきかえ、パープル×ピンク×白をベースにしたカフェやレストラン、ツリーハウスのかわいさは、眺めているだけでウキウキしてくる。さくらんぼやお花、猫ちゃん、色とりどりの透明パーツをテンションMAXで手に取る。

私は30年以上が経過した今になって、かわいいものを選ばなかった/選べなかった幼い自分をなぐさめようとしているのかもしれない。もしかして、あの頃の私も、本当はかわいさを無邪気にまとっていたかったのだろうか。

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