薄着よ、さらば

薄着、してたよね~。写真は、10年前に薄着で行った長野。
有馬ゆえ 2022.10.21
誰でも
photo:yue arima

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こんにちは。ライターの有馬ゆえです。

めっきり寒くなりましたが、いかがお過ごしですか? 秋から冬へと季節が着実に歩みを進める中、我が家ではしつこくアゲハチョウ飼育をしています。どうやら今、サナギになった幼虫は冬越しをするらしいと耳にして、どうやって保管すればいいのだ? 暖かい家の中で羽化してしまったらどうしよう!? と、対策をリサーチ中です。アゲハチョウ飼育の研究結果はまたあらためてレターにしたためる予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて今回は、佐賀新聞Fit ecruでの連載記事から「薄着よ、さらば」(2018年3月掲載)の加筆修正版をお送りします。そう、私たちはあの頃、とっても薄着だった。

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年始のセールで、元値が5万円ぐらいする白いコートを買った。コートの買い替えの必要性を感じていたわけではなかったし、子どもが生まれてからめっきり財布のひもが固くなったため、これは想定外の出費だった。

しかし、買ってしまったのにはわけがある。

12月の中ごろまで、私は流行に乗りたい気持ちと折り合いをつけるべく、ユニクロの1万2000円のチェスターコートがセールにかかるのを待っていた。そして年末セール中の店内で、見事にほしかった黒色のMサイズが残っているのを発見。やったー! と心躍らせ、さっそく手を伸ばして気が付いた。

これ、薄いな。

さらに、試着をして悟った。

これ、寒いな。しかもなんか貧相に見える。

そうか、私はもう、ペラペラの流行ものを軽やかに着られる年齢ではないのだ。

脳裏で、さまざまな記憶が数珠つなぎになって駆け巡る。産後、冷え性をこじらせた結果、昨年初めてヒートテックを着るようになったこと。ボアスウェットの暖かさに感動し、普段着として2本をローテーションして履きつぶしたこと。今年はついに、コートの下にウルトラライトダウンを仕込まねば冬の寒さをしのげなくなったこと。今では毎日、肌の上にユニクロの地層を作って生きている。点と点がつながり、線を持って書かれたのは「加齢」の二文字だった。

冬の始まりのある暖かい日、移動中の電車で気づいたではないか。濃紺のGジャン(死語)に黒いワイドパンツを合わせ、つやのある赤いリップが今っぽい大学生の女の子を見て、思ったのだ。

そういえばGジャンって着なくなったな。短い丈のアウターっていつ着るんだっけ? 冬が急速に来るようになったから? 革ジャンも2、3回しか着なかった気がするし……。っていやいや、地球規模の問題じゃなくて、加齢で自分の体が寒さを感知しやすくなっただけか!

かつて、私は薄着が大好きだった。代謝がよくてそもそも寒いと思っていなかったし、1ミリでも多く着やせしたかったのだ。だから、カーディガンやコートの前は絶対に開けてIラインを作り、首、手首、足首のいわゆる“3つの首”というやつは極力出すようにしていた。逆三角の体形だったので、冬でもミニスカート上等。タイツなんて暑くて履いていられなかった。

それなのに、いまやロングスカートやワイドパンツ、デニムを履いていたって、タイツを履かないと凍えそうだ。冬に靴下じゃ外に出かけられないどころか、少しでも肌を露出していたら一発で風邪をひいてしまう。足元も、革靴なんかは絶対無理。ムートンのローファーを履いていない日は、帰宅すると足が氷になっている。

と、マイナス10℃という極寒のソウルでアイドルを観てきた友人にしたら、彼女は深々とうなずいて教えてくれた。旅行中の防寒具として、ユニクロのヒートテック+ヒートテックタイツ+ヒートテックショートパンツ+ロング丈のウルトラライトダウンを一式買いそろえたことを。そして、帰国してからも快適すぎて、それらを標準装備することになったことを。

「でも私、思い出したんだよね。底冷えする京都で過ごした大学時代の冬のこと。当時”可愛ゴー(可愛いゴージャス)”全盛の『JJ』読者だった私は、コートの下にノースリーブか半袖のニット着てたんだよ。流行ってたし、かわいくて男受けがいい服装はそれだったから。でも、別に我慢してなかった。地球は温暖化しているはずなのに、あの頃に比べて身にまとう布の層はどんどん厚くなっていくね……」

そうだね、ユニクロがヒートテックをヒットさせなかったら、私たちどんだけ着ぶくれていたのだろう。年を取った日本人にとって、もはやユニクロは肌なのかもしれない。

そんな話をしながら、大学時代に実の父親が急にGAPのベイマックスみたいなダウンジャケットを送りつけてきたものの、着たのは唯一、極寒の2月のパリに留学していた4週間だけだった、というどうでもいい思い出が浮かんだ。

あれから約20年。30代最後の年始に購入したコートは、寒さに弱くなってきた体を暖かく包んでくれる。

厚みの割に軽く、しっとりとした手触り、黄色みがかった上品な色も気に入っている。汚れやすいにも関わらず明るい色を選んだのは、若さで自然発光しなくなった肌と髪の代わりに、少しでも太陽を反射してもらおうというせめてもの抵抗である。

それに、厚いコートにくるまれた私は、薄着だけでなく、若さゆえの憂鬱も手放しているのだ。ならば、明るく笑うおばちゃんでありたいではないですか。

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今回も、読んでくださってありがとうございました。

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