私、やっぱり女性ホルモンに支配されてた(3)

人類の一片であり、一人の人間であり、一匹の動物である私。
有馬ゆえ 2025.12.05
誰でも
photo:yue arima

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  こんにちは。ライターの有馬ゆえです。

 引っ越しをして9カ月、ようやく新しい土地でもゆるやかに連絡を取りあえるママ友さんができ、うれしい気持ちで年末を迎えています。「ママ友」というワードにはネガティブな響きもありますが、ママとして出会った友人たちをなくしては、私は子育てに取り組んでは来られなかったなと思っています。そんな盟友たちの話も、そのうち書けたら。

 さて今回は「私、やっぱり女性ホルモンに支配されてた(3)」をお届けします。未読の方は(1)(2)からお読みください。

***

 現在、私は閉経はしていないものの、更年期真っ只中である。でもって、更年期障害に苦しめられてもいる。

 不眠や途中覚醒、ホットフラッシュ、精神的な不安定さなどに困り、更年期障害を疑って婦人科を受診したのが去年の11月。当時かかりつけにしていた若い女性の婦人科医は、更年期にさしかかっているかの判断は問診と血液検査を組み合わせて行うのだ、私の場合は問診で明らかにそれらしい症状が出ているとわかったため血液検査をしてはどうか、と流れるように提案した。この先生は頭の回転が速く、水紋が広がるような静かで美しい声色で話すのだった。

 後日、結果を聞きに行くと、先生は結果の用紙をすっと差し出し、話し始めた。

「黄体形成ホルモンが46.82、卵胞刺激ホルモンは201.03という値ですね。どちらも更年期になると数値が上がりますが、卵胞刺激ホルモンは閉経すると40以上になるといわれています」

 「LH」という項目の下に「黄体形成H」、「FSH」という項目の下に「卵胞刺激H」とボールペンで書き付ける。

「それが201.03もあるってことは、もうほぼ閉経してるってことですか?」

 驚いて尋ねると、先生はすきとおった声で早口に言った。

「甲状腺の病気もなさそうですし、閉経にさしかかっていると言って差し支えないと思います」

 いよいよこのときが来た、と緊張しながら、

「じゃあ、えーと、ホルモン、補充、療法がしたいです」

 と、つっかえつっかえ伝える。先生は顔色一つ変えず「それがいいと思います」とささやくように言ってうなずき、治療が始められるかを確認するため既往歴などをヒアリングし始めた。

 更年期のホルモン補充療法(HRT)は、薬によってわずかな量のエストロゲンを補うことで、更年期以降の急激なエストロゲンの減少を穏やかにし、症状を和らげる治療法だ。子宮がんや乳がん、子宮筋腫、子宮内膜症、血栓症などがある場合は注意が必要、あるいは受けられないとされている。

 治療には、エストロゲンを補う薬とプロゲステロンを補う薬をセットで使うのが基本。エストロゲンには子宮内膜を増殖させる働きがあり、単体だと子宮体がんを発症しやすくなるため、その予防としてプロゲステロンを一緒に補うという。ただし、プロゲステロンの薬を使うと乳がんのリスクが高まるというデータもあるそうだ。

 そのリスクとメリットを比較して、先生はどう考えるかと質問する。

「だからといって、今治療を選択しないというほどの数字ではないと思います。ただ、定期的な検査はしていった方がいいですね」

 ホルモン補充療法には飲み薬や貼り薬などさまざまな種類と組み合わせがあるのだが、私は「エストラーナテープ」というエストロゲンを補うための貼り薬と、「エフメノカプセル」というプロゲステロンを補うための飲み薬を処方されている。

 エストラーナテープは3cmほどの楕円形をしたパッチで、2日に一度、お風呂上がりに下腹部か腰にぺたりと貼る。身体の動きで2日目には一部がはがれがちなのが玉に瑕で、絆創膏や湿布を貼る難しさに似ているなあと思っている。エフメノカプセルは寝る前に毎晩1錠ずつ。

 驚くことに、これがホットフラッシュと不眠に効果てきめんなのだ。夜、布団に入って暑苦しくてそわそわして眠れないなというときは、必ずエストラーナテープを貼り忘れていて、さらに貼ったらすぐにいい気分で眠れる、というぐらいにはよく効いている。残念ながら感想や顔のクマはそれほど改善した雰囲気がないが、2年ほど使用すれば骨密度が回復することもあるらしい。すごい。

 ホルモン補充療法は、日本ではだいたい10年ぐらい続けたら終わるのがスタンダードだと聞く。60歳以上、または閉経後10年以上経ってからホルモン補充療法を始めると狭心症や心筋校則などのリスクが上がる可能性があるという海外の研究報告もあるという。先のプロゲステロンの薬は、長期使用で乳がんのリスクが上がるというデータもある。一方で、アメリカでは高齢者になってもホルモン補充療法を続けて元気に過ごしたいと考える人たちも増えているそうだ。

 区の検診で訪れた近所の内科医のおばあちゃん先生に、たまたまホルモン補充療法をしていると言う話をしたら、急にパッと目を輝かせたので驚いた。

「あら~、いいわね、うらやましい。私もやってたけど、あの頃はすごく元気だったわ~! 今も出してもらえるなら出してほしいぐらい!」

 70代と思われる先生が振り返ってキラキラしてしまうぐらいの効果があるんだから、アメリカのおばあちゃんたちも治療を続けるわな。

 しかし、女性ホルモンが作れなくなってなお女性ホルモンの恩恵を受けて長く健康に生きようとするとは、人間とはなんと勝手で愚かで現金なかわいい生き物なのだろう。

 私は人類史上のちっぽけな一片であり、生殖機能が衰えれば生命として死に向かっていく動物であり、限りある人生を科学の恩恵を借りて幸福に歩みたいと望む人間なのだ。そんなふうに俯瞰したり、自身の現実にぐっとフォーカスしたりしながら、日々、豆腐や納豆からイソフラボンを摂取したり、保湿剤や目薬で潤いを保ったり、ヨーグルトでカルシウムを摂ったり、それを骨にするために歩いてみたりと、めんどくさいことをしぶしぶやったり、やらなかったり、無駄な抵抗を続けている。

<参考文献>

高尾美穂『いちばん親切な更年期の教科書 閉経完全マニュアル』(世界文化社)

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