ディカプリオのいない20代とO先生

photo:yue arima
こんにちは。ライターの有馬ゆえです。
この秋、私がハマっているのはディカプリオ。お母さんがレオナルド・ダ・ヴィンチの絵を鑑賞しているときに強くおなかを蹴った、レオナルド・ディカプリオ。今回は、そのディカプリオの話をします。下は、ほとんどタランティーノがしゃべっている『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のインタビュー(お気に入り)。
レオナルド・ディカプリオの出演作をひたすら観ている。
きっかけは、先月プライムビデオで『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)のビジュアルがたまたま目についたことだった。ディカプリオの出演作を観るのは、生まれて初めてだった。金とドラッグとセックスにまみれたホモソーシャルな世界観に吐き気を催しつつ、私は主人公・ベルフォートの、最低で愚かで、でも強烈な魅力にひきつけられ、179分を完走した。
そして思った。自分自身のカリスマ性を利用してこんなゲスな役をやるなんて、ディカプリオってどんな役者なんだろう? ドラッグでヘロヘロになって、七転八倒しながら自分のランボルギーニまでたどり着くシーンなんて最高だったけど?
翌日、ディカプリオの名前で検索をかけ、今度は『ギルバート・グレイプ』(1993年)を観ることにした。再生ボタンを押し、流れ出す緩慢な田舎の風景。古くさくて観られないかなと感じたが、ディカプリオ演じるアーニーが出てきてすぐにそれが覆された。彼の指先の具合や発声の仕方、目つき、笑い方が、私がこれまで目にしてきた知的発達症(知的障害)や自閉スペクトラム症の人たちとそっくりだったからだ。そこからの約110分、私は90年代初めに摂食障害や発達症、ヤングケアラー、きょうだい児といった問題を描いていることに驚きつつも、またもディカプリオのすごさに打たれっぱなしだった。
調べてみると、ディカプリオはアーニーと同様のハンディキャップを持った人たちと数日間をともに過ごしたり、関連書籍や映像で彼らの特性や仕草を学んだりしたうえで役作りをし、撮影時は表情を作るためにマウスピースをつけていたのだという。そのとき、18歳。すごすぎ。
ディカプリオに届くことはないが、もう本当に心から謝罪したいと思った。チャラい顔だけのアイドル俳優だと思いこんでいて申し訳ありませんでした。私、あなたがすばらしい俳優であることを知ろうともしていませんでした。これから勉強させてもらいます、と。
『ギルバート・グレイプ』を観た夜、珍しく夢を見た。
私は、21歳のときからうつの治療に通っていた神経科の診察室で、患者用の椅子に座っている。ジャガード織りの生地が張ってあって、座面だけ少しすれている、背もたれつきの回転椅子だ。どうやらクリニックを一人できりもりしているO先生は出かけているらしい。左手の一面の窓はシェードカーテンが上がっていて、木に雪が積もっているのが見える。