過敏な鼻(2)

香りの花は、クチナシ→大好き、キンモクセイ→わりと好き、ジャスミン→あんまり、沈丁花→大好き、ロウバイ→大好き。
有馬ゆえ 2022.09.30
誰でも
photo:yuearima
photo:yuearima

こんにちは。ライターの有馬ゆえです。

キンモクセイがきてますね! 東京在住の私が今年初めて感じたのは、9月27日(火)の朝。キッチンに立ったらまどからふぁ~っときたので、毎年キンモクセイの香り始めを報告し合っている友人に「きてるよね?」とLINEしました。ただ彼女は、「2週間ぐらい前に一瞬だけ感じたけど自信がなくて連絡しなかった…」とのこと。もっと鼻いい人がいた~!

前回のレター(「過敏な鼻(1)」)配信後、「私も!」と連絡をくれた人が周囲に2人もいてびっくりしました。世の中には意外と過敏な鼻を持つ人がいるのか、それとも類友形式で身の回りに多いだけなのか、なにはともあれエアーでハグできてうれしい。ちなみにそのうちの一人はキンモクセイの香りがつらいそうです。う、う、こんな気持ちのいい季節が台無しになるなんて……。

では今回は、前回の続きです。鼻の話に興味ない方、ごめんなさい。

***

引き続き、嗅覚の話である。

私はおそらく感覚過敏という症状をもっていて、鼻が過敏なのもその一環なのではないかと考えている。一緒に暮らす夫はどちらかというと鼻が悪い。子どもも、鼻はいいようだが過敏なわけではなさそうだ。そのため、家族と暮らすようになって、苦手なにおいに触れる機会が増えた。

日々の生活でいえば、飲食物のにおいだ。お菓子のフルーツ味の香り(とくにぶどうがきつい)、清涼飲料水の香りづけ。貝やにおいの強い魚、かぼちゃなど苦手な食べ物は、家族のために調理はするものの、自分ではほぼ食べない(味見もしない)。

ここ数年でもっとも苦手とするのは、小さなおもちゃが入っている子ども用のバスボムだ。あまりに香料がきついため、においが鼻に入った瞬間に息を止め、口から吐き出すというテクニックも使えない。吸い込んでしまったら最後、脳天を突かれ、ダメージで気分が悪くなる。

とはいえ、子どもがおこづかいで買いたいと言うこともあるし、お友だちからプレゼントされることもある。500円以下でアミューズメント性に富み、中に入ったおまけのバリエーションも豊富で(いろいろなキャラクター物が販売されている)、なにより、ガチャガチャしかり、チョコエッグしかり、ツインクルチョコしかり、「すてきな何かが出てきそうなもの」というのが子どもは好きなのだ。贈り物として優秀なのはわかる。なんなら私も選んだことがある。

しかし、湯船ににおいがつけば、数日は入浴できなくなる(私が)。拒む母の鼻。迫る子どもの好奇心。結果、我が家では洗面器で溶かして楽しむという折衷案がとられている。出てきたおまけ(チーズが乗ったアンパンマン号、スタートゥインクルプリキュアのフワ、ユニコーンや魔法のステッキなど)には強烈な香りが染みついているため、子どもは指先でそれをつまみ、「おかあさんこれいやでしょ」とニヤニヤするところまでセットで楽しんでいる。

最近は、図書館の本もつらくなってきてしまった。コロナ禍で、すべての借りた本から消臭芳香剤のような香りがうっすらただようようになったからだ。

以前から、私の前に借りた人の家の洗剤や柔軟剤、芳香剤の香りが移ってしまって、読まずに本を返すということはあった(そういえば、大学の頃のような煙草のにおいのする本はめっきりなくなった)。しかし、ここ数年のそれは、図書館に導入された本を何冊か広げて入れると除菌ができるという機械によるものなのではと推測している(または職員さんたちがシュッシュとしてくれているのだろうか)。感染症対策なので仕方がないと諦めつつ、やはり読まずに返すこともある。

においがまじりあう、というのにも弱い。

例えば、道で遭遇する人の群れが年齢問わず苦手だ。一般的にいい香りだといわれる中高生女子のアーモンド臭もだめだ。制服のほこりのにおいと渾然一体になって鼻腔の奥を攻撃してきて、かん高い声のおしゃべりとタッグを組まれたら最後、刺激の強さに体がこわばる。数十メートル一緒に歩いただけで疲弊して、帰ったら畳の部屋でしばし寝転ばないといけない。

アイドルの現場に通っているときは、ハロプロの現場では男性オタクたちの体臭に、K-POPの女子グループのファンミでは男性オタクたちの体臭+女子高生、女子大生のアーモンド臭に、マスクと口呼吸で応戦していた。

さまざまな家の洗剤、柔軟剤の香りと香水、化粧品、整髪料、体臭が立ちこめる保護者会も授業参観も刺激過多。つらくなると途中で抜けて校庭のすみで休むこともあるので、我ながら不信だなと思う。コロナ禍のマスクがあってもきついのだから、なかったらと想像するとおそろしい。

書き連ねてみて、これが他人の話なら「これだけ嫌なものがあって生活するなんて大変だねぇ」といたわりたくなると思う。

それでも普段、つい自分はごく普通の日常生活を送っていると感じてしまうのは、においによる負担を、私がかなり長いあいだ「ないもの」としてきたからなのだろう。

周囲にいる多くの人たちがにおいを気にする気配がないから、自分の苦しみを「こんなもんでしょ」とスルーしてきたのである。飲食店で隣の席からただよってくる煙草のにおいに顔をしかめ、咳き込むほどの過敏な鼻をもっている母に対しても、「大げさだな、においぐらいするよ」と思っていたのだ。私だって、その強い刺激を嫌だなと感じていたにもかかわらず。

一方で、薄々自分をおかしな鼻を持つ人間であり、おかしな感覚を持つ人間なのかもしれない、と疑う自分もいた。だが、自分で自分を繊細で特別だと思っている痛い人間だと思われたくない、といったねじれた自意識が働いていた。香りの違いがわからないなんて、センスのない人間という気もした。そのため、限られた“大丈夫な香り”を選択しているにすぎないのに、「みんなと同じくいろんな香りを楽しめるんですけど私はやっぱりこれが好きなんですよね」的な雰囲気を醸し出そうとしてきた。

でもその実、私は“大丈夫な香り”に手助けされて、どうにかやれているだけなのだ。

「香りにこだわって生活している」と話す人たちがうらやましい。

見た目だけで簡単に判断しないという感じがちょっと高尚だし、自分の感覚を研ぎ澄ませて生きているようで洗練されたイメージじゃないですか。他方、私はみんながいい香りだというものにさえも顔をしかめ、息を止めて通り過ぎるのだ。そのうえ、自分自身の発しているにおいには人並みに鈍感なので、そのうち体からただよいはじめる加齢臭は自覚できないのだろう。

生まれ変わったら、香水でオンオフを切り替えたり、香りの違うハンドクリームを複数持ち歩いて気分で使い分けたり、いい女っぽいといわれるボディークリームで自己プロデュースしたり、アロマオイルを調合して自分をケアしたり、そんなことをしてみたい。香りを楽しめる人生とはいったいどんなものなのか、すごく興味がある。

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今回も、読んでくださってありがとうございました。

ご意見、ご感想、ご相談、ご指摘、雑談などあればお寄せください。どうぞみなさま、おだやかな週末を!

bonyari.scope@gmail.com

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