竹を叩くと水が出てきた

photo:yue arima
こんにちは。ライターの有馬ゆえです。
長かった夏休みと、その間の仕事のリカバリーとでご無沙汰していたら、季節はもう秋。しっとりした雨のなかに金木犀の香りをキャッチして、いいね~とつぶやいてしまう。友達から「きたね!」とLINEが来て、私も「きたね!」と返す。私たちは毎年、金木犀の香りの来訪を報告しあうのであります。
さて今回は、不登校だった子どもが振り返った小1のころの思い出について。

photo:yue arima
「お母さん、知ってる? 竹の中って水が入ってるんだよ」
団地の外階段をぐるぐると下りながら、小5の子どもがそんなことを言い出した。「お母さんの傘の持ち手は竹だよね」(子ども)、「これ竹かな? こんなに節がいっぱいある竹ってあるのかな?」(私)という会話の流れに続いてのことである。
「あーそうだったよね」
なんとなく相づちを打つと、
「1年生のとき、『生活』って授業あったじゃん? 生活だって、おかしいね。生活科」
と子どもは笑った。
Eテレの『おばけの学校たんけんだん』のテーマソングが頭に流れる。小1の頃、子どもが学校で聞いて気に入り、よく口ずさんでいた歌だ。こうして始まる我が子の思い出話が、私は好きなのだった。私たちは、子どもの習い事に向かおうとしていた。
「国語、算数、生活、学活とかしかなかった気がする。あと道徳。道徳やったわ」
団地の敷地を出て、駅に向かう道を歩き出す。雨がパラパラと降ってきた。傘を差し、子どもは「小雨って面白~い、白く見えて雪みたい」などと周りを見回してから、先ほどの話を続けた。
「生活の授業でさ、あの森みたいなところに行ったわけ」
「あービオトープ」
子どもが以前通っていた小学校には、校庭のはじに小さなビオトープがあった。都会の学校なので敷地は狭かったが、さまざまな植物が植えられた気持ちの良い空間だった。奥には木々が涼やかな影を作り、手前には藤棚やメダカの泳いでいる小さな池、稲の植わったごく小さな田んぼ、キャベツの植えられた極小の畑。自然環境体験のための場所なので、雑草ものびのび生えて、雑然としているのがよかった。
「そう、ビオトープ。好きだったな~。それでさ、ビオトープに竹があるんだけど、みんながこのくらいの竹を棒でバンバンたたき出したんだよね。うちも途中からやったの」
「背が低い竹を叩いたってこと?」
「そうそう。そしたら、竹から水がピュッ、ピュッ、って出てきたわけ!」
飛び出してくる水に興奮しながら、小さな1年生たちが騒がしく竹を叩きまくる姿を想像する。かわいい。
「それでうち、その中をのぞいてみたんだよね。そしたら水が入ってたの! それで、竹の中って水が入ってるんだ~って知ったんだよね。面白かった。まあ、他の子はだれもそんなことしてなくて、竹の中なんて興味なさそうだったけど~」
竹をのぞき込み、中にたまった水を発見したときの我が子が浮かぶ。その表情の変化が、目の輝きが、わぁっと漏らしたその声が、脳内で再生される。子どもが心を動かす瞬間というのは、なぜこんなに感動的なんだろうか。

photo:yue arima
子どもを習い事に送り届けてからインターネットで検索してみたところ、竹の中に入っている水は「竹水(ちくすい)」と呼ばれるらしい。春の若竹の時期にのみ、竹は幹の中に水をため込むのだそうで、その期間は1年に20日間とも書かれている。
つまり、子どもが経験した「竹を叩いて水が出てくる」現象は、春の短い期間にのみ体験できることなのだ。なるほど、あれは子どもが小学校に入学したての頃のエピソードだったのか、と気づく。
小1から小3まで、我が子は不登校だった。小1の頃、我が子が毎日、決められた通りに学校に行っていたのは、5月の中旬ぐらいまでだった。最初は誇らしげにランドセルを背負い、張り切って登校していたのに、やがて泣いて宿題を嫌がるようになり、学校に行き渋るようになった子ども。だが、そのあいだにも、楽しい思い出は作られていたのである。
なんだかうれしく、同時に、当時の子どもの葛藤に少しだけ近づけた気がした。あるいは、子どもが少しずつ不登校の日々を昇華しつつあるということなのだろうか?
それにしても、朝の私よ、「あーそうだったよね」ってなんだ。全然間違ってるし。ついでに、私の傘の柄は「寒竹」と呼ばれるものだそうだ。今調べたら、そう書いてあった。竹は春に成長し、冬には成長が止まる。傘の柄には、乾いて硬い冬の竹の地下茎が適しているらしい。
ご意見、ご感想、ご相談、ご指摘、雑談などあれば、このレターに返信するか、コメント欄にお寄せください。コメント欄は「読者全員に公開」と「書き手のみに公開」のどちらかが選択できます。読者登録していただければ、更新のたびにメールで記事が届きます。
どうぞみなさま、おだやかな週末を。
すでに登録済みの方は こちら