サンタとヨンタ

子どもの頃、クリスマスにはサンタとヨンタがきた。
有馬ゆえ 2023.11.24
誰でも
photo:yue arima

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 こんにちは。ライターの有馬ゆえです。

 寒くなりましたね…。30代に入ったぐらいから、秋冬は貼るカイロを箱買いするのが習慣です。重ね着の窮屈さが苦手で、ヒートテック的な肌着は長時間着ると肌触りと息苦しさがきつく、裏ボア素材はかゆみに堪えられない。そんな私にとって、どんなときでも愛せる防寒用品と言えば貼るカイロ。でもうっかり者だから「貼らないカイロ」を買ってしまうことがある。

 さて今回は、クリスマスとサンタについて書きました。私は子どもの頃に「サンタ」だけでなく「ヨンタ」からもクリスマスプレゼントをもらっていたのですが。

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 ついに、ずっと我慢していた物を手に入れてしまった。レゴが毎年出しているクリスマス限定商品の2019年版「ジンジャーブレッドハウス」である。数年前からAmazonや楽天でじっとりウォッチしてきたのだが、今年になって急に価格が上がってきて焦り、最安値で買えるラクマで1万7700円で落札したのだ。数年前より結局5000円近く高くなったので自分の買い物の下手さにうんざりするが、お菓子の家でジンジャーマンの夫婦が子育てをしているのがかわいすぎるのでよしとする。

 昨年の冬の初め、突然「自分はクリスマスが好きなんだ!」という自覚が降ってきた。思い返すと、盆暮れ正月、ひなまつり、七夕、ハロウィンなどは興味がないのに、クリスマスの時期だけやたらと興奮していたではないか。

 あのムードが好きなのだと思う。赤いビロード、緑の葉っぱのチクチクトゲトゲ、雪を模した白のふわふわ、アクセントにキラッと金。伝統的な暖かい電飾の光。色合いもテクスチャも、うーかわいい!とキュンとなる。11月に入って街の雰囲気が変わり、雑貨屋にピカピカ光る小さなツリーや道化たサンタの置き物、木や布、ガラスでできたオーナメント、スノーマンやサンタを閉じ込めたスノードームなんかが並び出すと、思わず裏で拍取って歩きたくなる。だって流れるのは肩弾むクリスマスソング。映画『グレムリン』(1984)のクリスマスの街の光景や、ノーマン・ロックウェルの描くサンタの絵が、言いようのない憧れとともに浮かんでくる。

 さあさあ、クリスマスツリーを出そう。我が家のツリーは高さ30cmほどのツリー型のオルゴールだ。

 電気のスイッチをオンにすれば、雪化粧したもみの木のあちこちにある小さな家に明かりが灯り、木の根元にはぐるぐるとクリスマスソングに合わせて列車が走り出す。冬支度をした人々に、ミニチュアの子どもたちと雪だるま、メリーゴーランド。5年前、友達とランチをしたイタリアンレストランでレジ横に飾ってあったのに一目惚れして、帰宅後、商品名もわからないのにひたすら画像検索を繰り返して執念で探し出したお気に入りの逸品である。

 クリスマスといえばサンタだが、子どもが0歳の時から我が家にも毎年サンタがやってくる。サンタ制度を導入し続けているのは、「サンタがプレゼントを持ってくることで、子どもは自分がいまいる世界に愛されていることを感じられる」という考えをネットで読み、それだと思ったからだ。家庭で節約家の仮面をかぶっている私に、子どもがほしがるものを買い与えたい浪費家の私が抵抗するいいチャンスでもあるし、単純にクリスマスなるものを楽しみたいだけとも言える。

 そんな我が家が楽しむのは、キリスト教とは無縁なくせにクリスマスが近づくと子どもにどんなプレゼントがほしいかというサンタ宛の手紙を書かせたり、クリスマスイブの夜に子どもとサンタが休息するためのクッキーと牛乳、トナカイ用のにんじんを用意してから寝たりするような、和洋折衷なクリスマスだ。ちなみに、クッキーと牛乳は夫婦でおいしくいただき、にんじんは夫がトナカイとしてかじってくれる。

 日本の市井のクリスマスが面白いのは、こうした和洋折衷なところだと思う。異文化がなんとなく流れ込んだ形なので、各家庭でちょっとずつ設定が違ったり、異なる目撃情報があったりするのなんて、最高に笑える。サンタがおもちゃを買って持ってくる家庭もあれば、サンタが工場でおもちゃを作って持ってくる家庭もあるし、親がサンタに頼まれてプレゼントを買う家庭もあるのだ。

 テレビや絵本、はたまた友達や先生との会話から新たなサンタの世界観を知って、ちょっとしたズレに子どもが設定を微調整したり、ムムッと疑念を抱いたりする瞬間も面白い。我が子など、先日先生から「サンタは株を運用しているからお金持ちなのだ」という新たな設定を仕入れてきた。そんなのもアリなのか。

 8歳になった我が子が今年サンタにお願いしたいのは、ニンテンドースイッチなのだという。友達の家では見る専で楽しんでいる「スプラトゥーン3」や「マインクラフト」をマイペースに楽しみたいらしい。本体にソフトにもろもろそろえたら4万円を超える気がして、「うーんスイッチ高いから、1年分でくれるかなあ」とケチな発言をしたら、

「お母さんさ、サンタさんと協力してお誕生日プレゼントのお金と合わせてスイッチ買ってもらってくれない? できたらあの小さいチップみたいなやつも」

 と交渉された。小さいチップみたいなやつ、とはソフトのこと。なかなか知恵を絞ってくるものである。

 子どもの頃、母子家庭の我が家には母やサンタだけでなく、ときどき「ヨンタ」からもクリスマスプレゼントが届いた。子ども時代にクリスマスプレゼントとして誰から何をもらったのかはほとんど覚えていないし、ヨンタからのプレゼントが特段楽しみだったわけではないのだが、ヨンタなる不思議な存在がいたということだけは、はっきりと記憶している。

 クリスマスにサンタがやってくるというファンタジーに対しては、複雑な気持ちもある。さまざまな事情でサンタが何も持って来ない家庭もあるからだ。私にしても、他人事ではない。もし母が名のある会社の契約社員でなかったら、もし祖父母の援助を受けることができなかったら、もし養育費が一切支払われなかったら、私もサンタの来ない家庭に育った子どもの一人だったかもしれないのだ。

 高校生ぐらいになって、ヨンタは離婚した父だった、と母が教えてくれた。サン(3)タならぬヨン(4)タというネーミングが、母らしいユーモアだ。あるいは、とっさに口を突いて出た名前だったのだろうか。ともあれ、自分のために何かをしてくれる母や祖父母以外の人がこの世のどこかにいるという事実に、私はかすかだが心強さを感じていたと今思う。決して、その実像に近づくことはできなくても。

 キリスト教圏では、クリスマスは寄付や社会貢献、ボランティアの時期でもあるという。それならば、と今年は特定の書店かオンライン書店で自分の選んだ本がさまざまな事情で大変な状況にある子どもたちに届く「ブックサンタ」に参加することにした。以前どこかで読んだ、子どもにクリスマスプレゼントを渡すときに同額の寄付をする先を選ばせるというのもやってみたい。

 私もだれかのヨンタになりたいのだ。

 去年のクリスマスの日の朝、目覚めるなり「寝ちゃうとき、シャンシャンシャンって鈴の音が聞こえた! そのとき、サーって窓の外をソリが通った!」と興奮気味に語った我が子の顔が忘れられない。そうだよ、あなたたち子どもは世界に歓迎されている。12月、そんなメッセージを一人でも多くの子どもが受け取れるといいなと願っている。

中目黒の蔦屋書店でブックサンタをしたらステッカーをもらったよ。ヨシタケシンスケ「ころべばいいのに」とレイモンド・ブリッグス「さむがりやのサンタ」を選びました。photo:yue arima

中目黒の蔦屋書店でブックサンタをしたらステッカーをもらったよ。ヨシタケシンスケ「ころべばいいのに」とレイモンド・ブリッグス「さむがりやのサンタ」を選びました。photo:yue arima

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