自転車で、ビュンッ、って走った

補助輪つき自転車と電動自転車のサイクリング体験。先日も、電動自転車で国会図書館まで行ってきました。
有馬ゆえ 2021.05.28
誰でも

こんにちは。

東京は、梅雨だというのに晴れたり降ったり。そんななか、マンションの補修工事をしている3カ月間で、観葉植物の土にカビが生えて泣きそうです。

今回は「自転車で、ビュンッ、って走った」。補助輪つき自転車で走る子どもから学んだこと。

***

カンカンする太陽に汗腺が目覚め始めた初夏のある日のことだった。公共交通機関を使わずに遊ぶようになって1年以上経ち、ついに娘が「交通公園に行きたいんだ!」と叫んだ。ただの不満とは違う。彼女の言葉は、体の奥底からわきあがった憤りをともなっているように思えた。

交通公園とは、自転車や足踏み型のゴーカートで道路のミニチュア版のようなコースを走り、信号や踏切、左側通行、簡単な交通標識など交通ルールを学べるというアレだ。娘はなかでも、簡素な楕円型のコースが描かれただけのとある交通公園が大好きで、新型コロナウイルスが流行するまでは、たびたびバスに乗って遊びに行っていた。

ならばと我々は提案した。散歩も兼ねて、その公園へ歩いて行ってみよう、と。我が家からは約3.7km。大人の足でも1時間はかかる距離だ。時間の感覚をいまひとつ理解していない彼女はすぐさまその話に乗り、かくして私たちは途中でお昼を食べたり、コンビニで買った牛乳を飲んだりしながら、徒歩で交通公園に赴いた。

久しぶりにコースに出た彼女は、黙々と補助輪つき自転車をこぎ続けた。キッと空をにらみ、アスリートのように集中している。信号を気にするあまり過剰にブレーキをかけるので周囲にどんどん抜かされるが、まったく意に介さない。自分の世界に没頭し、ただただ真剣に足を動かしている。あんなスピードで楽しいのかと疑いつつ、本人の醸し出す疾走感とのろのろ運転のギャップがちょっとおかしく、とてもいとおしかった。

30分ほどして、何周もコースを回り続けていた彼女が、突然キキッとブレーキをかけた。自転車を駐輪場に戻すと身軽になって再び姿を現し、きょろきょろと辺りを見回す。私と目が合った瞬間、無表情だった顔が初めてゆるんだ。にこにこ笑いながら小走りに戻ってくる。そして、自分の走りについてこう話した。

「楽しかった~。ビュンッ、って走ってたよね!」

その1週間後、私は不意にその言葉を思い出していた。人の多い大通りの横断歩道を電動自転車で渡っているときのことだ。スピードを緩めるのが下手な私は、ゆらゆらと揺れながらはじっこを不安定に進んでいた。

10年ぶりの自転車だった。しかも、43年間で初めての電動自転車である。子連れと言えば電チャリでしょ? と思われるかも知れないが、私はずっと電動自転車に乗る勇気が持てずにいた。コップでさえ毎度毎度前歯にぶつけるほど体が不器用な私には、電動自転車(約25kg)に自分(約52kg)と子ども(1歳でも7kg、5歳現在でも16kg)をのせた物体(最低でも80kg以上)を操るなど、到底不可能に思えたのだ。自分の保育園時代、母が後ろに私を乗せたまま自転車を倒しかけたことがあるものだから、自分が同じことをしたらと考えると恐怖でしかなかった。「(ハンドルに)つかまってなさい!」と叫ぶ母の声と、ゆっくりと傾く信号待ちの風景は、今でも残る記憶なのだ。

だが、そのときの私はどうしても遠くまで散歩に行きたかった。そこでふと、シェアサイクルのことを思い出したのだ。公共交通機関に乗りたくないというより、憂さを晴らしたいような気持ちがあった。たまに自転車移動をしている夫に「住宅街をゆっくり走るコースならば焦らなくて大丈夫」と助言され、一人ならいける気がして、電動自転車を借りて仕事の資料を読みに行ってみることにした。

その帰り道だった。横断歩道で徒歩の人々のあとをヨタヨタと走り、車体の重さに体を取られながら、「人から見たら頼りなく見えるだろうけど、私にとってはすごく気持ちよくビュンビュン走ってきたんだ!」と思ったのだ。そしてよみがえったのが、娘の言葉だった。

「楽しかった~。ビュンッ、って走ってたよね!」

右手の人差し指を勢いよく左に振りながら「ビュンッ」と言った娘の得意な顔を思い出す。そうか。私にはどんなにのろのろ運転に見えても、娘は小さい体でビュンビュンと風を切り、颯爽と走っていたのだ。実際に。なんて野暮なことを考えていたんだろう。幸福とは、自分の体感こそがすべてなのだ。そこに他人の評価なんて、まったく、そうこれっぽっちも、関係ないのだ。

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