下手な手芸と自由と抵抗

私の下手手芸グッズ。針山はこどもが作ってくれました。photo:yue arima
こんにちは。ライターの有馬ゆえです。
昨日、友人から「新しいおうち、レターを読んでなかなか素敵と思ったよ~」と連絡をもらい、心躍っております。うれしいな~。ただ、家の中はいまだに片付いてはいない。エアコンの数も足りない。
それでは今回は、私の好きで下手な手芸について。
先日、朝日こども新聞のLINEアカウントから送られてきた週間ランキングの通知のなかに、「編み物がZ世代にブーム きっかけは水泳選手や芸能人」という記事タイトルを見つけた。
「芸能人って、どうせまたLE SSERAFIMのSAKURAたんがTWICEのSANAたんに手編みの帽子をプレゼントしたとか、衣装を作ったとか、ツアーグッズでセルフケアのためのかぎ編みセットを企画した話だろ。こちとら最初にSANAたんがインスタのストーリーでプレゼントを紹介したところから知っとんじゃい。そんでもってその後に続いた水泳選手って誰じゃい」
と、指先でタップしてリンクを開いたら、水泳選手とは飛び込みのトム・デイリー選手だそうで、彼が東京オリンピックで競技の間に心を落ち着けるために編み物をしている姿が話題になったのは2021年と、SAKURAたんが編み物姿をインスタにアップした2024年より前なのだった。無知である。
しかしすかさず「かといって、どうせ今度は『若い男性まで』とか言うやつがいるんだろ。編み物は女の趣味だって誰が決めたんだ。決めつけんな」と頭が勝手に姿の見えないミソジニストに悪態をつき、それから次の段落の「子ども向けの手芸の本などを多く手がけている寺西恵里子さんは『こんなにはやっているのは40年ぶりくらい』といいます」という一文に驚いた。
40年前と言えば、1985年。私が7歳の時である。
そうだ、当時、友達の家に行けば一部のお母様方はかぎ編みやレース編みで電話のカバーやドアノブカバー、花びん置きなどを作っていたし、義母も昔はレース編みを楽しんでいたらしい。70~80年代にはファッション誌「non-no」の別冊でニットの本が出ていたり、表紙に少女マンガが使われたニットの本があったりもしたような……!
最近の編み物ブームはコロナ禍の家ごもり傾向やSNSの流行による監視社会、からのその後やってきたセルフケアのトレンド、体験という価値の再発見みたいな文脈の中にあるのかな~~とぼんやり考えていたが、その前に流行したのはバブル期に24時間働く夫を支える主婦たちのストレスコーピング文脈だったのでは? などと想像して、興奮気味にパソコンを起動してGoogleで「1980年代 編み物ブーム」を検索すると、検索結果の中に「橋本治」の文字が目に飛び込み、愚かさにうちひしがれる。そうだよ、あの頃は橋本治先生というニットの伝道師がいたのだった。
物事は決まった枠組みの中だけでは起きないし、いつでもはみ出す人たちがいる。そのほつれのような部分にこそ枠組みを越えるきっかけがあるはずなのに、それを知っていても、偏見から抜け出すのは難しい。いつもは、他人の思い込みに批判的なくせに。