救いの神モンブランプリン

20代のころ、モンテールの焼プリンモンブランに助けられていた時期がありました。20年以上、変わらぬおいしさ。すごいね。
有馬ゆえ 2021.12.17
誰でも
ph:yue arima

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こんにちは。

二言目には寒いと言いたくなる季節がやってきました。子どもの要望でおもちゃのミカンがついた鏡餅を買いましたが、あのミカンは今年で二つめ。この先もコレクションされていく未来しか描けず、想像のなかですでに年々増え続けるミカンを持て余しています。

さて今回は、私が好きなスーパーのスイーツについて。モンテールの焼きプリン・モンブランの話です。全国津々浦々いつでもどこでも買えるらしいので、見つけたら食べてみてね!

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2021年になってから、ひさしぶりにスーパーでモンテールのモンブランプリンに手を伸ばすようになった(今、確認したところ正式名称は「焼きプリン・モンブラン」だそうで、自分のいい加減な記憶を猛省しているが、ここでは長年、呼び続けた『モンブランプリン』を使いたい)。

ただのスーパーのスイーツだけど、これを買うとき私の心はちょっと浮き立つ。マロンクリームが偏らないように、注意深く持ち帰るのすら楽しい。ピカピカ光るフィルムをペリリとめくるのには、注意深さが必要だ。ちょっとでも力が強いと、衝撃でマロンクリームが崩れてしまう。ドーム型のペコペコしたふたをゆっくりはずすと、パカンと出てきた黄金の小高い丘。白い粉糖は雪だよね、だってMont Blancだもん。

まったり濃厚でしっかり甘いマロンクリームにふんわり生クリーム、ちょっと固めのプリン。カラメルは液っぽくてわりと苦めの本格派だ。最初はプリンの層を突き破らないように慎重にスプーンを使って、マロンクリームと生クリームを。それからお次は、ぷつりとプリンの層まで分け入り、みっつをいっぺんに。しばらくはカラメルなしで楽しむためにプリンは底に浅く残して食べ進め、最後に茶色く染まったほろにが味で締め。あー、おいしかった!

喉がひりつくような甘さは40代の私にはトゥーマッチだがとても懐かしく、確かに私の心を癒やす。気づけば胸のそわそわが消えている。これでお値段たったの税込198円。その価格を日常的には高いなぁと感じていた20代の初めから、私はモンブランプリンに助けられてきた。

20代の初め、現実に疲れきってしまい、生活もままならない時期があった。大学を休学し、一人暮らしの部屋でベッドに横たわったまま、当然文章を書くことも、絵を描くこともできず、本を読もうにも目が滑って文章が読めず、テレビも観られず、音楽も聴けず、食べられも、眠れもしない。誰と話す気力も起きなかった。

それでもたまに空腹を感じたときは、ベッドからはいだして帽子を深くかぶり、スーパーに行って自分の食べられるものを探した。しかし、ない、ない、全部食べられない。ご飯も、パンも、肉も、野菜も、豆腐も、納豆も、スナック菓子やケーキ、アイスもダメ。絶望。

そんななかで、唯一食べられたのが、このモンブランプリンだった。何を買っていいかわからないとき、ひんやりした棚に彼らが行儀良く並べられているさまを見るだけで心強く、その存在に救われた。大げさでなく、金色に光輝いて見えた。

ひとつふたつとかごに入れてレジに並び、家に帰ると大切にスプーンでちょっとずつ食べた、と言いたいところだがあっという間に食べ終わってしまうのが常で、容器が空になってから、あーあ、もう少しゆっくりたべればよかった、とがっかりする。あの頃、キッチンシンクの下にあるベージュのプラスチックゴミ箱には、洗ったモンブランプリンの透明な容器が乱雑に積み重なっていた。

砂糖と卵、乳でできていて、栄養もカロリーもとれるモンブランプリン。大正時代、洋菓子が優秀な滋養強壮食として広まっていったのを想起する。砂糖のおかげで、私の脳内ではドーパミンやらセロトニンやらが一時的に増加し、幸福な状態にもなっていたのだろう。

どちらにしても、モンブランプリンは私にとって命をつなぐ食事だった。

数少ない安心材料として体に刻まれているせいか、生きるのがつらい時期に食べていたものなのに、不思議な愛着がある。

スーパーでモンブランプリンに手を伸ばすその瞬間、私は自分がちょっと弱っていることを自覚する。同時に、真っ暗な深い海を溺れそうになりながら泳いでいた過去の記憶が呼び起こされ、若い自分によくやったと声をかけたくなる。少し休んで、またぼちぼちやろうという気持ちになる。

全国どこででも200円足らずで買えるモンブランプリン。他人にとってはつまらないスーパーのスイーツかもしれないけれど、私にとっては人生に欠かせない特別なお守りなのだ。

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